もうひとつの家造り
「リフォーム」という名の、もうひとつの家造り(2)
「リフォーム」とは、
経験豊かなべテランにしかたずさわることができない
複雑で独特な分野であると考えます。
大がかりな「リフォーム」は『経験豊富なベテラン以外は「リフォーム」にたずさわらないほうがいい』??という考え方があります。
さらに理想を言えば、建築の世界に20年以上たずさわる経験豊富な「ベテラン中のベテラン」こそが、「リフォーム」を仕切るリーダーにふさわしいとも思っています。
「リフォーム」という作業が、それだけ複雑で難しい作業だと認識できている人しか出さない、きわめて採用率の低い条件かもしれません。
理由のひとつは作業する環境にあります。【お客さまが住んでいる中で作業をこなす】という「リフォーム」独特のやり方があるからです。
現場すぐ近くには、お客さまの日常生活があります。
そんな中で、いったんは家を壊す作業をおこなうことで、そこに大量のチリやホコリを発生させます。
見えない場所に隠れていた汚れたモノも次から次へと生み出します。
足場の悪さや移動しづらさという悪不条件も必ずついてまわるのです。
作業する側の人間にはあたり前の状況も、お客さまにしてみればまったく異なります。
「リフォーム」の期間中ずっと、我が家であって我が家でないような居づらい環境の下で暮らさなければならない不自由な毎日です。
もちろん、その姿は作業をする人間の目にも入ります。
これは、建築関係者にはふつうすぎる単純な話ですが、建築を知らない一般の方は初めて知る「リフォーム」の意外な一面かもしれません。
こうした複雑なメンタルな面を気づかいながら、実際に始まってみなければ見えてこない難題が、そのつど多方面から絡みついてくるのも「リフォーム」という仕事です。
専門的な技術の高さはもちろんですが、それにプラス・アルファ、経験力と知識力が要求されます。
そう考えると、十分対応できる力を身につけるには、最低でも目安として20年くらいの期間が必要ではないでしょうか。
ひとつの例ですが、作業の途中、お客さまから「ひと息いれて、お茶でもどうぞ」と、こんなひと言があったとします。それに応えて「すいません、遠慮なくちょうだいします」と返す短いたったひと言で、スルスルッと見事にお客さまの内へ溶けこんでしまうのもベテランの親方のなせるわざです。
なぜかと問われても具体的な理由はわかりません。
専門家のわたしでさえ、実際に目の当たりにすると、まるで魔法でも使ったかのような不思議な感覚にとらわれます。
きっと、経験上培ってきた人にしかできない自分流の人間くさいコミュニケーション力が自然に身についてきたからなんでしょうね。
しかも「リフォーム」には、そんな人とのコミュニケーション力も、作業の早い段階からすごく大事です。じつに、奥深い世界だと思います。
本当に重要なことは、日本の住宅が時代とともに構造や設備機械が大きく変化してきたことです。
「リフォーム」にとって、住宅の工法や素材が時代とともにどのように流れ、住宅が変わってきたかを知っていることで、より的確なアドバイスと信頼に繋がっていくと思います。
執筆者:笹沢竜市